マージナルマンの視点(布施豊正)
ヨーク大学名誉教授でトロント在住の布施豊正先生の本,「マージナルマンの視点ー自殺学の「窓」から覗く世界」を読んだ.先生とはトロント紅白歌合戦でお会いしたのだが,別の方から「最近本を出したらしい」ということをきき,早速日本のAmazonから取り寄せたのであった.
本の内容は,布施先生が半生を振り返っていろいろと感じていらっしゃることが中心である.自殺学の専門書ではなく,エッセイと言った方が良いかもしれない.そのため,楽しく,一気に読むことができた.本を読んでいると,なんだか,自分の祖父から懐かしい話をいろいろ聞いているような,そんな気分になる.先生は,戦前・戦中を日札幌で過ごし,戦後すぐにアメリカに留学,ベトナム戦争に反対してカナダ(モントリオール)に移住し,最終的にはトロントのヨーク大学で教鞭を執られた.この間世界中の国を旅しており,まさに「マージナルマン」としての視点から,小気味よい切り口で文章が続いてゆく.ご自分の体験が元になっているから,臨場感もかなりある.
布施先生の文章を読んでいると,自分がトロントにいて日本を少し客観的に見られるせいもあるのだろうが,自分のアイデンティティはやはり日本にあり,そしてそれにもっと誇りを持たないと,ということを感じる.こちらにいて,留学生などと話していると,やっぱり自分の国「日本」を意識せざるを得ないし,それだけに,その日本のことをうまく説明できない自分にいらだつ.自分の知識不足・英語能力の低さも多分にあるのだろう.本書を読んでいると,それを布施先生に見抜かれており,ときに諭され,ときに励まされているような,そんな感じを受けた.
東京図書出版会
売り上げランキング: 772340